結婚前の元彼女に会う




2・3年ほど前になるでしょうか。
結婚前に付き合っていた彼女と連絡を取る機会がありました。

電話の向こうから聞こえた声は懐かしく、当時の記憶が鮮明に蘇り、感慨深い思いに駆られました。
あのとき、彼女の方から「会いたくなっても困る」という言葉を聞き、僕もそれを思って終わりにしました。

それから、1ヶ月か2ヶ月か、ときどき連絡を取ることがありました。
もともと趣味も好みも似ていました。
何かに迷ったとき、話を聞いてもらいたいとき、自分と同じ結論を出して欲しいとき。
久しぶりに連絡を取ったときにはぎこちなさがあった会話も、だんだんとふだん通りになりました。

だからといって、それ以上に距離を詰めようとは思ってもいませんでした。

あれから。
たまたま、僕が最近ハマっているサウナに、彼女も興味を持っていることを知りました。
まったく知らなかったことなので、驚きながらも共感の言葉を伝え、その話題で盛り上がるようなこともありました。

出張中の宿泊先に選んだサウナで、彼女にサウナの良さを懇々と語り、その良さをうまく伝えられずにいました。
そうして出た言葉が「今度、どこか入りに行こうか?」と。
僕が動けるのはいつかも分からないし、今のご時世、そう簡単に出て歩くような雰囲気でもなく、ほんの軽い言葉で伝えました。
ふたつ返事で、彼女は行く約束をしてくれました。

それから数日後、彼女の母がガンで倒れました。
混乱しているなかで、彼女は約束のキャンセルをする連絡をくれました。

事情を聞き、僕も納得して受け入れ、約束していた日を迎えました。
もともと外出の予定があったので、ひとりでどこのサウナへ行こうかと思っていた昼過ぎ。
彼女から「2時間ぐらい空くから行く?」という連絡。

一緒に入るわけではないにしても、一緒に出かけることは無いと思っていました。
前の約束も本気とも冗談ともいえるほどに気軽なもの。
それが、まさか当日になって彼女の方から約束を取り付けてくれるとは。

待ち合わせの約束をして、僕は日中の予定を済ませました。
懐かしい駅前のコンビニで、夜10時に待ち合わせをしました。

いつもなら、この時間から宿泊先のサウナへ行くところ。
この日は予約もしていなかったため、どこへ行って何をしても良い状態でした。

車で待っていた彼女を見つけ歩いていくと、ドアのカギを開けて「久しぶり」と、お互いに何でも無い挨拶を交わしました。

急な約束と、日中からの用事で、どこへ行くかも調べていなかったのですが、時間が限られていることもあって、車の中で最寄りの銭湯を探します。
彼女は知る限りの候補を教えてくれ、その中のひとつに営業時間の余裕も清潔さもある事が分かり、向かうことにしました。

車中、久しぶりの存在感でしたが、緊張感もなく、とてもリラックスしている僕がいました。
助手席に乗せてもらうのも久しぶりで、馴染みの無くなってしまった街の様子も久しぶりに眺めました。

銭湯について、時間の約束をして別れ、僕はゆっくりとサウナを楽しみました。
何も焦ることも無ければ、気が急くようなこともなく、ただのんびりとリラックスをして。